メイドさんの恋愛事情




なんであたしがこんなとこに来なくちゃならないのよぉ…。




うぅ、美和ママのご飯が食べたい…。


舞ちゃんと遊びたいよぉ…。




とぼとぼと会長の息子の後に続いて家に入る。


いっぱい使用人とかいるんだろうな…。




「…………あれ?」




家に入っても、使用人らしき人は誰もいない。




「ああ、うちには住み込みの使用人はいないんだよ。じいが隣の別館に住んでるだけで。父さんと母さんは海外にいることが多いから」




あたしの気持ちを読み取ったように、会長の息子が言う。


ふぅん、こいつの父親と母親もずっといっしょな訳じゃないんだ。




……………ん?




ちょっと待って?




「あの、さっきのおじいさんは?」


「別館にいるけど」




サラッと答える会長の息子。




ってことは………。




「ああ。この家には俺とお前だけだぞ?」




ニヤッと微笑む会長の息子。


また一人称が僕から俺になってますよ〜…?




てかてかてかてか!


知らない人と2人っきりにはなっちゃいけないんじゃなかったっけ!?




「私、帰ります!さようならっ」




急いで引き返そうとしたとき。




「何言ってるの?今日から妃菜の家はここだよ」


腕をつかまれ、そう言われた。


意味がわからなくて、ポカンと間抜けに口を開ける。


「あ、あ、あたしの家ぇ?」


「そう、妃菜の家」


当たり前のように言われて、意味もわからずカッとしたあたしは腕を振りほどきながら会長の息子を睨みつけた。


「あたしの家?なわけないじゃない!あたしの家はもっとあったかいの!おいしいご飯があって、みんなが笑ってて。こんな冷え冷えとした家じゃないっ」




イライラが募って、口が怒鳴声をあげる。


イライラすればするほど、嫌なことを思い出す。


さっきまで忘れてたけど、あたしこの人にファーストキス奪われたんだよ!?




挙げ句の果てにここがあたしの家!?




ふざけんじゃないわよっ。




< 12 / 89 >

この作品をシェア

pagetop