メイドさんの恋愛事情
『着替えとか勉強道具とか、必要なもの持って明日から来て』
と、合い鍵を渡されて帰されたあたし。
とりあえずいつも通りに家に帰って、荷物の準備を始める。
物をねだる、なんてことをしたことがないあたしだから、部屋には必要最低限のものしかない。
バーゲンで買った服数着に、何年も使ってるリボン付きのショルダーバック。
入学祝いに買ってもらったウォークマンに、遥兄ちゃんからもらった本。
修学旅行用に買ってもらったキャリーバックに、あたしのものは全て入ってしまった。
たった30分で何もなくなってしまった自分の部屋に、苦笑いをする。
あたしは部屋を出て、キッチンに行くと美和ママの隣に立った。
「ねぇ、手伝うことある?」
「んー?じゃあ、お鍋かき混ぜてて。シチューが焦げないように」
美和ママがキュウリを刻みながら言う。
あたしはコンロの前に立って、シチューをかき混ぜ始めた。
トントントントントントン
リズムよくキュウリを切る音も、当分聞けないんだ、って思うと寂しくて。
なぜか流れそうになる涙をこらえて、世間話でもするように言った。
「美和ママ、今までありがとう」
「えー?どうしたのよ、急に」
美和ママがトマトを切りながら言う。
「あたし、この家出て行くね」