メイドさんの恋愛事情
リズムよく流れていた音が途絶える。
美和ママが目を丸くしてこっちを見た。
「何ですって?家を、出て行く?」
「うん。だから、今までありがとう」
ぺこりと下げた頭を戻すと同時に、美和ママの手からするりと包丁が落ちた。
ドンという音を出して、包丁がまな板に突き刺さった。
「美和ママ!?」
「妃菜ちゃん!何言ってるの!?嫌よ、まだ妃菜ちゃんはうちで育てるの!」
美和ママはすねたような怒った声でそう言った。
「妃菜ちゃんは私の娘なの!うちの子なのよ!もし妃菜ちゃんが私達の実の娘じゃないってことでそう言ってるなら、違うんだからね。パパだって最近部長に昇進したし…。妃菜ちゃんが望むなら、大学院まで出す気なのよ、私達。別に遥希なんて、高校出たら働かせてもいいんだし。だから、出て行くなんて言わないで…」
最後は涙目になってそう言う美和ママ。
そんなことを言ってくれる美和ママの気持ちが嬉しくてしょうがなかった。
でも美和ママ、誤解してるんだよ…。
「あのね、ただバイトで住み込むだけなの。だから、この家にもたまには帰ってこようと思ってるし…。永遠に出て行く訳じゃ……」
「…………バイト?え?どういうこと?」
あたしはバイトをクビにさせられ、家政婦(メイドよりも家政婦の方がいい気がしてそう言った)として住み込みで働くことにしたんだと言った。
「そんな、まだ高校生なんだから住み込みで働かなくてもいいじゃない。で、何さんちなの?住み込むのは?ママが断るから」
「ちょっと、断っちゃダメ!いいバイトなんだから!川瀬さんち、あの川瀬グループの川瀬さんちなの!」