メイドさんの恋愛事情
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「妃菜ちゃんにはね、幸せになってほしいんだあ」
「えー?お母さんは幸せじゃないの?」
「お母さんは幸せよ。優しい旦那さんがいて、こんなにかわいい娘がいるんですもの。だからね、お母さんは妃菜ちゃんにも幸せになってほしいのよ」
「妃菜は今幸せだよ!」
「ふふ、今じゃなくて。妃菜ちゃんが大きくなったらの話よ…。だからお母さん達はね……、あ、やかんの火つけたままだったわ。止めなきゃね」
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あたしは目をぱちりと開けた。
ふかふかベッドでうとうとしているうちに、夢まで見てしまったらしい。
お母さんの、夢だった。
優しい瞳であたしを見つめるお母さんに笑いかけること。
お母さんが、つやつやした、少し小さい手であたしの頭をなでてくれること。
もうあたしが、永遠に体験できないこと。
無意識に瞳から涙がこぼれ落ちて、新品の布団にしみを作る。
お母さん、最後に何を言おうとしてたの?
今はもう、聞けないんだよね…。
あたしはベッドから起き上がって、まわりを見わたした。
つい数時間前に、《あたしの部屋》になった部屋。
ふかふかの高級ベッドに、安っぽいルームウェアを着てるあたしは似合わなくて。
小さくため息をついてから、着替えて買い物に出かけた。