メイドさんの恋愛事情
遥希side◇妹がいない夜
「遥希!ご飯だよ!」
部屋で寝ている俺を起こしにくるのは、妃菜ではなくて母さん。
わざとうざったそうにして起き上がると、母さんは腰に手をあててため息をついた。
「遥希はほんっとに寝起きが悪いのね!毎日妃菜ちゃん大変だったんじゃないかしら」
“妃菜”、その言葉を聞くと胸が痛む。
妃菜は、俺の妹みたいなヤツ。
小さいころからずっといっしょで。
………いつのまにか、俺が好きになったヤツ。
どこが好きか、と言われてもよくわからない。
サラサラな長い髪の毛も、大きい目も、ぷっくりした赤い唇も、ピンク色のほっぺも。
あのかわいい声も、優しい笑顔も好き。
もちろん、優しい性格だって全部好きなんだ。
いとこを好きになる、ということはあまりいいことじゃないと思う。
だから、ずっとひたすら隠してきた。
俺が、妃菜を好きだということを。
…………妃菜が、傷つかないように。
「遥希、さっさと下りてきなさいよ」
母さんがそう言って部屋を出て行く。
昨日までは、俺を呼びにきたのは妃菜だったのに。
妃菜は川崎だか川瀬だか、よく知らないところに住み込みでバイトに行ってしまった。
いくら高い給料だからって、住み込みというのは納得できない。