メイドさんの恋愛事情
ホッと安堵したのと同時に、あたしは冬夢くんの姿が見えないことに気がついた。
「あの…、冬夢くんは?」
「ああ、冬夢なら」
「母さん?帰ってき…」
幸助さんが答えるのと同時に、頭にタオルを巻いた冬夢くんがリビングに入ってきた。
お風呂に入ってたのかあ♪
「冬夢くん、お疲れ様です」
あたしがぺこりと頭を下げて顔をあげると、驚いた顔をした冬夢くんがそこにいた。
「え……妃菜?」
ああ、そっか。
あたしイメチェンしたから、びっくりしたんだね?
「えへへ…。美香さんがお金出してくれたんです。一気に垢抜けちゃいました」
あたしが髪の毛を触りながらそう言うと、冬夢くんは、
「あっそ」
とだけ言ってリビングを出て行ってしまった。
あたし、似合わないのかな…?
「ふふ、冬夢も多感なお年頃だものねー♪妃菜ちゃん、気にしないでね」
美香さんはそう言ってキッチンに入って行った。
「妃菜ちゃん、明日も学校なんだろ?お風呂に入ってはやく寝た方がいい」
「はい、ありがとうございます」
あたしはおやすみなさい、と頭を下げてリビングを出た。
なんか…、なんか、モヤモヤする。
別に、かわいい、なんて言って欲しかったんじゃないのに…。
なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
洗面所の鏡にうつるあたしは、つい数時間までとは全く違う容姿をしている。
なのに…、その顔に笑顔はない。
あたしは少し憂鬱な気分のまま、お風呂のドアを開けた。