メイドさんの恋愛事情




「………妃菜さあ、これがどういう状況かわかってんの?」




「…………え?」




「押し倒されてる、って言うんだよ」




遥兄ちゃんはそう言って、にやっと笑った。




違う……


いつもの遥兄ちゃんじゃない…


いつもの遥兄ちゃんは、こんな笑い方しない…




「遥兄ちゃん!どいて!」




なんか…、嫌な予感がする…。




あたしは遥兄ちゃんをぐいぐいと押した。




……びくともしない。




「妃菜さあ、誘ってんだろ?」




「な、なに言って…」




「上目遣いも必死な姿も、誘ってるとしか見えないんだけど」




そう言って、遥兄ちゃんはあたしにキスをした。




………なんで……!




どうして……?
ファーストキスなのに…!




「やだっ、やめてよ!」




「やめない。」




遥兄ちゃんは、あたしの制服のすそから胸を触ってきた。




「………!なにして…!」




「ただ自分の欲望に素直なだけだけど?」




違う…!


こんなの、遥兄ちゃんじゃないよ…っ


優しい遥兄ちゃんはどこに行ったの…




「嫌だよ、遥兄ちゃん嫌だよ!」




もう、遥兄ちゃんはあたしの声にも反応せずに、あたしの唇や胸を触っている。




「助けて………」




叫べば、きっと美和ママが来てくれる。




だけど、叫んだら遥兄ちゃんが美和ママに責められちゃうよ…




お世話になった遥兄ちゃんに、迷惑かけるわけにいかない…。




「助けて…!」




こんな小さな声で叫んだって、誰も来てくれないのに。


それはわかってるけど、やっぱり大声でなんて叫べないよ…




いつの間にか、遥兄ちゃんの手はあたしのスカートにまで移動していた。




「やめて…助けて…」




あたしの目から涙がこぼれ落ちた。




嫌だ、嫌だ…!
助けてよ、助けて…




「助けてよ、冬夢くん…!」




< 77 / 89 >

この作品をシェア

pagetop