メイドさんの恋愛事情
「あ。ヒナたんだあ」
前から聞こえた声。
あたしをヒナたんって呼ぶのは、お店のお客さんだけだから…。
常連さん?
やだ、こんな顔見せたくないのに…。
「ねぇ、ヒナたんでしょ〜?」
あたしは知らんぷりを決め込んで、下を向いたまま通り過ぎようとした。
だって、マスカラがひどいことになってるはずだもん…。
「ヒナたん?無視しないでよ」
腕をつかまれて、初めて顔をあげた時息をのんだ。
「僕は、君の“ご主人様”だよ?」
常連さんじゃない。
サラサラの髪の毛に人なつっこそうな笑顔。黒目の面積が大きい目に筋が通った鼻。
モデルさんみたいに高い身長はあたしを見下ろしていた。
「誰………」
意味がわからずに呟くあたしに、その人は微笑んだ。
「だから言ったでしょ?君の“ご主人様”だよ」