メイドさんの恋愛事情
「遥兄ちゃんにはもう会いたくない」
一人になった部屋で、俺の頭の中はこの言葉だけだった。
なんであんなことしたんだろ……。
後悔してもしきれない。
時を戻せるなら戻したい。
どうしようもない苛立ちに、手元にあった本をばんっと投げつけた。
本は棚にあたり、棚の中のものが派手な音を出しながら崩れ去った。
棚の中から、妃菜がくれた手作りのお守りが落ちた。
「ご飯よー」
母さんの声も、他人事のように聞こえる。
妃菜を傷つけて、母さんにどんな顔すればいいんだろう。
俺より妃菜を可愛がってる母さんだから、もし、もしこのことを知ったら……
家から追放だろう……
俺は大きくため息をついた。
馬鹿な自分に腹が立つ。
ずっと“いいお兄ちゃん”で良かったから。
良かったから、妃菜のそばにいたかった。