メイドさんの恋愛事情
第4章
1日だけお客様
目を覚ますと、部屋はもう明るかった。
梅雨明けのからっとした太陽が、カーテンを通り抜けてあたしに降りそそぐ。
何時だろう……、そう思って時計を見ると、時間は9時だった。
ほんとなら、冬夢くんの朝ご飯を作らなきゃいけない時間。
でもあたしは、動く気力がなかった。
昨日あったこと。
思い出すだけで、嫌。
家に帰ってからは、すぐにベッドに入ったけど寝れなかった。
冬夢くんが珍しく優しくて、おかゆを作ってくれたりしたんだけど。
それも食べられずに、あたしはベッドに丸まっていた。
あたしが眠るまで、冬夢くんはずっとあたしのそばにいてくれた。
手を握って、ただ微笑んでいてくれた。
それだけで、どんなに安心したことか……。
でも、あたしは雇われの身。
いつまでもぐったりなんかしてられない。
「…………起きよう」
声に出してみただけなのに、体はすくっと起き上がってくれた。
顔洗って、歯磨きして、下に行こう。
いつもより遅い朝ご飯になってしまったけど、今日だけは許してもらおう。
顔を洗うと、少ししゃきっとした。
歯磨きすると、少し気分がよくなった。
下に降りてリビングのドアを開けると、そこにはもう冬夢くんの姿があった。
「おはよ、ちゃんと寝れた?」
冬夢くんは自分で入れたらしいコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。
「おはようございます。………寝れました」
「あ、朝ご飯は俺が作っといたから」
あたしがキッチンに向かおうとすると、冬夢くんはそう言った。
「え…、すみません、あたしがいつまでも寝てたから……」
「あー、違う違う、今日は妃菜がお客様の日だから!」
あたしが謝ると、冬夢くんはそう笑った。
「妃菜はずっと休み無しだろ?だから今日は妃菜がお客様の日。俺が妃菜のやりたい事に付き合うから。とりあえず、座ってろよ」
冬夢くんは、そう言ってキッチンに入っていった。
冬夢くんは、きっとあたしのことを気づかってそう言ってくれてるんだね……。
使用人の身分なのに、申し訳ない気もするけど…。
今日だけは甘えさせてもらお……。