― ONE LOVE ―
洋人は、ミュージシャンになりたいという夢を叶えるため、高校を中退。母の涙の訴え、普段は無口な父も野球のテレビ中継を消し、リモコンをドアに投げつける始末。洋人は、その大反対劇を押し退けて、大都会へと家を出た事を、少し思い出していた。


「母さん、そげん言わんでも、洋人は自分なりに頑張っとるさ。」


年末恒例の紅白歌合戦を見ていた洋人の父は、大好きな北島三郎の歌を聴きながら、洋人と母の間のちょっとした空気を察し呟き、またその意識をテレビへ向けた。


『そうさ!俺やって毎日一生懸命頑張りよっとたい!』

【洋人の心】
…ありがとう。お父さん。しかし、北島三郎のどこがいいのか、俺には分からんよ‥。


母の表情が少し和らぎ、しばらく洋人の小さい頃の話に少し色をつけながら、家族は談笑に浸った。

父も母も、洋人の抱く夢には一つも触れず、ただその話の間に、

「いつでも帰って来んね。」

とだけ、話した。


【洋人の心】
…その言葉だけで十分だよ。ありがとう‥。俺には帰る場所も大切に思ってくる人もいるんだな。きっと、俺の夢が叶おうが叶うまいが、親には関係ない。‥俺が元気に生きてさえいれば、それだけで十分なんだね‥。

よっしゃぁあ!俺、頑張るからね!!



白い息、手を擦る音、何かとはしゃぐ子供の声や、カップルのイチャつく姿。洋人は少しだけ、それに嫉妬しながら、地元の友達とともに神社の鐘をついた。

― 新しい年が明けた。
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