群青
「あ、あの。私、帰りますのでっ!!」
「え~南ちゃんもう少しゆっくり……って」
母さんが言葉を掛けるそこにはすでに八幡の姿はなく。「おじゃましましたっ」と言う声と同時にドアが開く音がした。
部屋に残された僕と母さんは所在なく目を合わせた。
「……私って南ちゃんに嫌われてるのかしら」
まぁ。あんなにわかりやすく拒否されたら凹むよね。
「あれは別に嫌ってる訳ではないよ。八幡はただ僕以外の人間が嫌いなだけだよ」
「……」
母さんは何も言わない。わかってるのだ。母さんも。
数年前の事を覚えているのだ。そして八幡を救うことが出来なかった事も忘れてはいない。
忘れる事は出来ない。
八幡にとってはもちろん、僕と母さんにとっても嫌な記憶なのだ。