2人だけ


入院をして始めて目を覚ました日から次の朝。

例の彼が朝早くにわたしの病室を尋ねて来た
昨日と一緒で部屋に入るなり頭を下げるだけで、無口になった。

そういえば、彼の事なんにも知らない
名前聞きそびれちゃったもんなぁ・・・


「ふかせ、」

「えっ ふかせ??」

「海が深いの『深』に瀬戸の『瀬』で。深瀬、俺の名前」


かたく閉じられた口を開いた時、重低音の心地よい柔らかな彼の声を昨日ぶりに聞いた。

「覚えといて」と消え入りそうなトーンで囁くとまた、本を読み出す。




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