元カレ教師・完結編~君がいる日々、いない日々~
抱き締められた感触と「好きだ」の三文字は、まるで生きているかのようだ。
あの時感じた、熱も彼の息遣いも抱擁の強さも、全てが鮮明に思い出される。
今は空気としか触れ合ってないのに、その場面にいるようだ。
あたしは俯いた。
抱き締められてときめき、心地好いと思った。
そしてそれが続く事を願った自分が浅ましい。
あたしは唇をきつく噛んでいた。
戸田の話を全く聞かず、あたしはただひたすら、昨日の事だけを考えていた。
その時間はたった数分なのに、何時間も経ったかのように思えた。
「今日も頑張れよ!」
戸田はいつものように言った。
良く言えば明るく、悪く言えば能天気だ。
「妃奈?」
阿紗子があたしの顔を覗いていた。
とても心配そうだった。
「大丈夫?」
「全然平気!」
時間が迫っているせいか、阿紗子はそれ以上聞かなかった。
それでもその面影には、まだ不安が残されていた。