桜姫紀
思い出すのは辛い傷跡
第3章 思い出すのは辛い傷跡
「私は・・商人の家に生まれたんです。
両親は幼い頃に死んで、10歳離れている兄が唯一の家族でした・・。」
ポツリ、ポツリと葵さんは話し始めた。
ー10年前
「ちょっとーーーおにいちゃーん!!」
「何だ。」
ぷぅ、と私は頬をふくらませた。
「お兄ちゃん、歩くの早すぎるよぉ!」
「お前が遅い。」
お兄ちゃんの意地悪ーー。
いーっ、と舌を出しても全くお兄ちゃんには効果なし。
「あたっ!」
ガァンと目の前にあった小石につまずいて転ぶ。
「わぁぁぁぁぁぁんんん!!!!」
「・・はぁ。大丈夫か?」
「ひっく・・ひっく・・うん・・。」
お兄ちゃんが差し伸べた手を掴み立ち上がる。
「だから、ついてこなければ良かったのに。」
いつもはおにいちゃん一人で隣の村の市場に物を売りに行く。
だけど、お兄ちゃんは朝早く行って夜遅くかえる。
やっぱりさみしいよ・・。
「いーくー!」
「はいはい。」