桜姫紀
「ただいま。」

「あれ?今日は早いね。」

お兄ちゃんはいつも夕日が沈んで
真っ暗になる頃に帰ってくる。
なのに今は日がまだ照っている。

「葵・・話があるんだ。」

「え、今じゃないとだめ?洗濯物が・・。」

「今だ。」

はいはい、とぼやきながら私は座った。

「で、どうしたの?」

「葵、俺祝言を上げることにしたんだ。」

時間が止まった。
一瞬で世界の色が変わる。
さっきまで色鮮やかな世界は白黒の世界と化した。

「だっ、誰と・・・・?」

「・・蝶だ。」

お兄ちゃんまで私から離れていくの?
私、今度こそ一人ぼっちになっちゃうよ。
やめて、お兄ちゃん。
戻ってきてよ。
私もう一人は嫌だよ・・・。

「お、めでと、う・・。」

どうして。どうして。
どうして私祝っているの?
嫌なのに。嫌で嫌で仕方ないのに。
この口もこの目もこの体も


全部、全部自分のものじゃないみたい-----。


「葵。お前のことはちゃんと面倒みる。
ちゃんとお前の兄としての責任を果たすから。」

ちがうの。お兄ちゃん、ちがうの。
私・・・

お兄ちゃんが、好きなの。



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