桜姫紀
目の前に立っていたのは男の人。
口元はで隠されていて顔はよくわからない。
不思議な格好だ。
腕には半分しかない袖。足もひざまでしかない。
この人がさっき聞こえた怪盗か。
なんとなくそれは理解できた。
だけど、どうしても理解できない。
どうして、霞がその人の傍にいるの!?

「今よ、桜!その人と逃げて!!」

煙が部屋まで充満してきた。息が苦しい・・・。
それに逃げるって?

「いったいどういう・・・・」

「こーいうことだ。」

ひょい、と軽々と私は背負われた。

「うっわ、軽すぎないか!?」

「あぁ、もう!そんなこと言ってる場合!?早く逃げなさい!!」

痴話喧嘩。まるで夫婦のようだ。

「ちょっと待って、見張りが・・。」

「だーいじょうぶ。火事の方に気をとられて誰もいやしないわ。」

微笑みながら霞は言った。

「いいこと!?桜に何かあったら承知しないんだから!!」

まるでそれに答えかけるようにニッと男の人は笑った。

「わかってるって!」

そして悲しそうに霞が微笑む。

「さようなら、桜。元気でね。」


その声が聞こえたとき、私にはもう霞の姿が見えなかった。
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