幕末恋模様~時を越えて~
* * *
早朝の任務が終わり屯所へ戻ってきた杏里は廊下で寝起きの沖田と遭遇した。
「あ、お帰り。どうだった?初任務。」
「んー、疲れた。」
欠伸を噛み殺しながら会話をしているところに藤堂がやってきた。
「おっ、お疲れ様!結構派手にやったみたいだね。斎藤君から聞いたよ。」
「あー、うん。結構派手にやってたみたい。」
「覚えてないのかよ!」
笑いながら突っ込む藤堂。
「そういや平助、何持ってるの?」
「あ、これ?山崎さんに頼まれたんだ。そろそろ行かなきゃ。」
二人は藤堂を無言で見送った。
「頼まれてた物って?」
「蝋燭と五寸釘だよ。彼、手が離せないみたいで平助に頼んだみたい。」
ウキウキした顔で沖田は答えてくれた。
「あぁ、そうか。」
「そう、今土方さんが絶賛拷問中だよ。」
「言葉間違ってねぇ?」
捕縛した時に邸宅の蔵から大量の武器や長州藩との書簡等が発見された。
甲冑十一両、槍二十五本、三挺の短筒と火薬、弓十一張、矢が五百本あった。
武具は持ち帰らず桝屋の土蔵に封印し役人に見張らせていた。
そして今に至る。
「鬼の副長降臨か…。」
牢屋もとい拷問場所、蔵の方を振り向き見た杏里。
少し覗いてみたい。という好奇心がわいてくる。
沖田は見透かしたかのように言った。
「覗かない方がいいよ。」
向き直ると沖田の顔が自分の顔の前にあった。
「土方さんのは特別地獄だからね。」
気分悪くしたくないでしょ?と言いながら微笑みかける。
「杏里は血なまぐさいものは見なくていいの。」
「どうせ後々見る羽目になるからいいや。ちょっとひと眠りしてくる。流石に疲れた。」
耐えきれずに大きな欠伸が一つ出てた。
「じゃぁ召集かかった時に起こすよ。」
沖田の申し出にひらひらと手を振ってその場を後にした。