左目のマスカット味
振り返ると あたしに携帯の画面を見せる悠が立っていた。
「さぁ、電話に出る?」
電話は―…陽からだった。
「ちょっ返して………わっ!」
携帯に伸ばした手を引っ張られ 体勢をくずして 悠に抱き締められる形になった。
「と、おい…なにす…っ」
あたしにお構いなしに、ピッという音と同時に、悠は携帯をあたしの耳に寄せた。
<もしもし、アメちゃん?>
陽の優しい声が聞こえた。
「…はっはぃ……」
<あっ今大丈夫?>
「だ、大丈夫だよ?どうしたの」
抱きしめられながらなのか、声が震える…
<今日は先に帰ってごめんな?>
「えっあ、いや、気にしてへんからっ」
<そっか……あっ、今から時間ある?>
「…えっ!? い、いまから!?」
「今からは無理」という言葉が喉元まで来たとき 携帯が耳から離れていったのが分かった。
「もしもし、雨美の彼氏ですけど。雨美は今から俺とセックスするんで無理です。つーかもう雨美に関わんな。んじゃ」
そう吐き捨て電話を切った。