空へ
旅行
結局、陽菜とデートに行くことはなかった。
次の日に、部活にそれほど影響なければ、バイトしてもいいと理沙からの承諾を得たからだ。
彼女とのデートを我慢してまでバイトをしたい理由…。
それは、家が母子家庭だからだ。
俺の母親は、パートだけで生計を立てている。
少しでも、家の為にお金を稼ぎたかった。
陽菜には、夏休みに旅行に連れていく約束をして、デートを我慢してもらった。
そして、バイトと部活に明け暮れて、気付いたら夏休みになっていた。
「んじゃ、明日8時に駅前のバス停な!」
「うん、楽しみだね。それじゃ、おやすみ」
「おう、おやすみ」
そう言って、電話を切る。
女の子と二人っきりで旅行なんか行った事のない俺は、緊張と期待で一睡もすることが出来なかった。
「陽菜、おはよう」
「あ、努。おはよう」
バス停に着くと、陽菜がもう待っていた。
「バリ眠いわぁ。俺昨日一睡もしてないねん。バスん中で爆睡するわ」
陽菜は笑った。
「それじゃ授業中と変わらないね」
「なんでやねん。いつも授業中俺が寝てるみたいな言い方やな。寝てる時もまぁ、たまにあるけど、睡眠学習してるんやで!」
陽菜とそんなくだらない事を言い合っていると、後ろから声がした。
「オッス陽菜、おはよう」
サッと後ろを振り返る。
一瞬にして嫌な予感がしたが、それは的中していた。
理沙と良美がバス停の列に並んでいたのだ。
理沙と良美は、俺と陽菜みたいに大きめのバックを持っている。
「え?ちょう待って!お前ら何してるん?」
まぁ聞かなくても分かるんだけど、一応聞いてみる。
「何って、富士山ランドいくんだよ」
理沙は当たり前のように答えた。
「おい」
とっさに陽菜を見る。
「あはは、ごめん。バレちゃって…」
デートを我慢までお金を貯め、楽しみにしていた二人っきりの旅行は、出発前にして終わったのだった。