空へ
陽菜の話を聞き終わった俺は、気がついたら床を殴っていた。

良美の元カレも、その同居人も、俺は知らない。
知らないからこそ、この怒りをどこにぶつけていいのか分からない。

そして、この事実を知った明日から、今まで通り、良美に接せる自信が俺にはなかった。

「くそっ、くそっ」

何度も床を叩く。

「努が今怒ってもしかたないよ」

「だけど、同じ男として、良美にどう接したらいいのか分からへん」

「今まで通りでいいんだよ。努は良美の元カレでも、その同居人でもないんだから。それに、多分良美は…」

陽菜はそう言いかけて、やめた。

「え?」

「あ、いや、何でもない。…明日、最高のバースデイにしてあげようよ!」

陽菜はそう言って、いつものようにニコッと笑った。



−次の日−

俺達は、早朝にホテルを出て、東京へ向かった。
渋谷、原宿、台場、舞浜と周り、次のホテルにチェックインしたのは、パレードが終わった1時間後。

「もうクタクタやわ〜」

ドッとソファーに倒れ込んだ俺に、陽菜が言う。

「努、まだ今日はこれからが本番だよ」

良美の誕生会…。

「そっか、そうやな」

俺がそう言った時、ドアがノックされた。

ノックしたのは理沙。陽菜は理沙を部屋に招き入れた。

理沙は何やら大きな袋を床に置き、俺に言った。

「よし、ケーキはこの部屋で用意するし、私達はこれから準備するから、努、あんた良美と30分くらい時間潰しといてッ!」

「え?俺が?」

正直、良美と二人は気まずい。

「だって、良美がこの部屋に入って来るまで秘密にしてるんだから。良美だけ一人にしてたら不審がられるでしょ?」

俺は二人に分からないように小さく溜め息を吐き「ほんならしゃーないわ」
と、部屋を出た。

フラフラ良美がいる部屋を探す。

えーと、良美と理沙の部屋は822号室だっけ?

潤覚えだったので、恐る恐る822号室をノックしてみる。

返事は…ない。

当たり前か…。

ドアに向かって、迷惑にならない程度に叫んでみた。

「良美ー、ちょい開けてやー」

ホテルといえど、仮にも女の子の部屋に入るのか…って何緊張してんだ、俺。

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