空へ
バスは山中を走っていた。

バスの一番前の席に座る。

山にある川はなぜ、あんな白く濁った水色に見えるんだろう…
何て考えながら、スナック菓子をボリボリ食べて、運転席の向こう側の景色や、窓側に座っている陽菜を越して景色を眺める。

とても、穏やかな時間だった。

外は晴天で、今から家に帰るのが惜しい気にさせる。

そんなゆっくりした時間を壊すかのように、バスが急停車した。

「わッ!」

持っていたスナック菓子がパラパラと落ちる。

その次の瞬間、目の前に雷が落ちたような衝撃が走った。

何が起こったのか、分からなかった。

バスの前部が破壊され、同じく前部が破壊されたトラックのようなものが見える。

一瞬、目の前が真っ暗になり、目を擦ると、手が赤く染まった。

「え?何これ?」

額を触り、そこから血が出ているのが分かった。

ふと、隣りに座っている陽菜に目をやった。

「え…?はな…陽菜ッ!」
陽菜は俺と同じく、頭から血を流していた。

ただ、俺とは比べものにならない程出血量が多く、前屈みになってグッタリとしていた。

「おい、陽菜ッ!」

揺さぶっても、陽菜は目を開けない。

「誰か、包帯…いや、タオル!タオルくれッ!」

しかし、俺の助けなど誰も聞いていなかった。

いや、乗客の誰もが頭を真っ白にして、状況が把握出来ずにボーとしていた。

「おい、理沙!良美!」

後ろの座席に座っている二人の名前を呼ぶ。

「あ…努!血ッ!」

理沙が俺の顔を見て、そう言った。

「いや、俺より陽菜がヤバいッ!」

「え?」

理沙と良美は立ち上がり、自分達の前の席にいる、前屈みになった陽菜の様子を見た。


「キャーッ!陽菜!」

「ヤダ!何で…」

陽菜の姿を見て、パニックになる二人。

二人の悲鳴が他の乗客のパニックを連鎖させ、車内がざわめいた。

「いいから、タオル!タオルよこせや!」

しかし、パニックに陥った二人にはもう、俺の声など聞こえない。

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