空へ
陽菜の父親が「あの…」と何かを言いかけ、理沙が「あ…」と何かを言いかけたが、もう俺には何も聞こえない。

怒りで自分を押さえられなくなり、狂ったように雄叫びをあげ、ギブスの男に襲いかかった。

「うわあぁぁ!お前のせいじゃ!お前の、せいじゃぁ!」

胸ぐらを掴み、顔面を一発殴る。

「何で陽菜がこんな事なって、お前が生きとんねんッ!」

俺がそう言うと、スーツの男とギブスの男は、驚いたように陽菜を見た。

おそらく、怪我をしただけだと思っていたに違いない。

「陽菜はなぁ、笑顔がもの凄い可愛いかったんやぞ!お前がそれを奪ったんやぞ!何とか言えやボケ!!」

ギブスの男は、黙ったまま下を向いた。

「何で何も言わへんのじゃッ!陽菜に謝らんかいッ!」

ギブスの男は、ポツリと言った。

「も…申し訳ない」

俺は、掴んでいる胸ぐらを揺すりながら叫んだ。

「何が申し訳ないやねんッ!お前が死んで、陽菜が無事やったら良かったんじゃ!それやのに、それやのに」

陽菜の父親が止めようとする。

「仲原君、やめなさい」

俺は陽菜の父親には返事をせず、ギブスの男に言った。

「…殺したる。俺が殺たる!お前を殺したるッ!」

冗談なんかじゃない。
本気だ。
今なら本気でコイツを殺せる。
コイツを殺さないと気が済まない。

そんな憎悪に染まっていく俺を、陽菜の父親が一喝した。

「やめなさいッ!」

そう叫び、俺の頬を叩く。

「君の気持ちは分かる。だけど、それだけはやっちゃいけない。これは事故なんだ!」

陽菜の父親は、そう言って理沙を見た。

< 34 / 100 >

この作品をシェア

pagetop