空へ

夢を諦めて

今日は大学へ行って、その帰りにコンビ二でバイト。

明日は、晴貴と漫才の練習をして、その帰りにコンビニでバイト…。

そんな毎日が1年続いた。

「私達、全然売れないね…」

私は、何気なく晴貴に言った。

別に嫌味で言ったんじゃない。
1年や2年で売れる訳がないしね。

ただ、私がこう言うと晴貴はいつも『大丈夫、これから売れるから』と私を励ましてくれる。

私はそれが聞きたくて、言うのが癖になっていた。

晴貴はいつもの様に、空に向かって煙草を吸っている。
いや、いつもに増して、晴貴はボーッとしていた。

煙草の先っぽの灰の塊が、ポトっと下に落ちる。

「どうしたの、晴貴?」

私が聞くと、晴貴は口を重そうに言った。

「なぁ、珠希」

「ん?」

「漫才、やめにしないか?」

予想もしないセリフだった。

訳が分からず、私は聞き返した。

「え?どうゆうこと?」

「俺達、多分売れない… 売れねぇよ」

私はとっさに反論した。

「そんなの分かんないよ!」

「そうだな。…うん、分かんないよな。でもさ、俺、漫才やめたくなった。いや、やめなくいけなくなった」

「え?何で!ちょっと、晴貴、どうしちゃったのよ!晴貴が、漫才やろうって言ったんじゃない!なのに、どうして?」

晴貴との漫才が終わる…
嫌だ、絶対に嫌だ!
漫才がなくなったら、私と晴貴の繋がりがなくなるじゃない!

そんなの、絶対に嫌だよ…。

しばらく黙って、晴貴は言った。

「…好きなんだ」

え、何?

「お前が好きなんだ」

え?
ウソッ!
どういうこと!?

晴貴は漫才をやめたくて、晴貴が好きな私は漫才をやめたくなくて、晴貴も私が好きで…あーもう、訳わかんないッ!

「わ、私も、ハ、晴貴のことが好きだよ」

な、何言ってるの、私…。
ってか、声が裏返っちゃったし!

ヤバイ、チョー胸がドキドキする。

「うん、知ってる」

晴貴はサラッと言った。

晴貴は知ってたんだ!
鈍感男じゃなかったんだ!

…て、今はそんなことじゃなくて、えーと、何だっけ。

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