空へ
あの日…私は晴貴の家で、一緒にTVを見ていた。

TVでは、新人お笑い芸人の漫才ショーがやっていた。

「あ、このコンビ、私達と同期の人じゃん」

晴貴は、ボーッとTVを見ながら応えた。

「うん…」

「あ、このコンビも…」

「うん…」

時は、漫才ブームだった。若い芸人でも、ちょっと面白ければ飛ぶように売れた。

私達も、漫才をやめなければ、今頃はTVに写っていたのかなぁ…。

「ごめん、ちょっと散歩してくる」

晴貴はそう言って、家を出て行った。

今更だけど、やっぱり、晴貴は漫才を続けたかったんだ。

口癖のように『私達、売れないね』と言っていた自分が、どれだけ晴貴を傷つけたのかと考えると、心が痛んだ。

きっと、私がそういう事を頻繁に言うことも、漫才をやめる原因の一つだったんだ…。

もうそこにはいない、晴貴がいた場所に向かって呟いた。

「晴貴…ごめん…」



その後晴貴はなかなか散歩から帰って来なかった。

心配になった私は、晴貴のケータイに電話してみることにした。

「あ、晴貴?なかなか帰って来ないけど、どうしたの?」

「…うん、もうちょっとしたら帰るから」

晴貴は、少しろれつが回っていなかった。

「え?晴貴、酔っ払ってんの?ちょっと、どこで飲んでるのよ」

「う〜ん…すぐ帰るから…」

「すぐって、明日仕事じゃない!早く帰って来なよ」

「うん…」

そう言った晴貴だが、全く帰って来る気配がない。

「もう知らないッ!!」

誰に当たるでなく、私はそう叫んだ。

「珠希ちゃん、今日は泊まって行きなよ」

気を利かしてくれた晴貴の親父さんが、そう言ってくれるもんで、私はその言葉に甘えることにした。

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