空へ
転入初日で、教科書なんて何も持ってない。

だから今日一日全教科、吉倉さんと机を引っ付けたままだ。

4限目の授業が終わる頃には、ノートに書き込んだチャットが16ページにも及んだ。

授業は何も聞いていない。
転入初日で分からないってのもあるけど、あんまり面白くないしね。
ってか、進んで勉強するタイプじゃないし…。


4限目が終わり、昼休憩になった。

弁当を食べ終わった頃、ニコニコ笑った吉倉さんから声がかかる。

「校内案内するけど、行く?」

「うん。吉倉さんって、面倒見ええなぁ」

「あはは、私これでも学級委員長だよ」

吉倉さんの意外なセリフに「マジで!」と驚いてしまった。
今日半日の授業態度から見て、堅いイメージの学級委員長とは思えない。

「へぇ、なんか意外やなぁ」

「意外って何よ?まぁクジ引きで当てちゃっただけだけどさ」

「そうなんや。運がええなぁ」

俺がそう言うと、吉倉さんは少し顔がムッとした。
その顔が妙に可愛いかった。



校内案内中、吉倉さんとずっと話していた。

会話が途切れた時なんてない。

今日初めて会ったばかりなのに、よく会話が続くもんだ。

「ここ、軽音楽部。私、軽音楽部なんだ」

様々な楽器がところ狭しと置かれた部屋に案内された。

「軽音楽部って?」

「バンド組むの」

急激に吉倉さんに興味が湧いた。

京都にいた時、俺もバンドをやっていたからだ。

まぁ、今はバンドよりバイトをしてお金を稼ぎたいから、入部なんてしたくないけど…。

「バンド?へぇ、吉倉さんは何やってんの?」

「ドラムだよ」

「そーなんや」

「ねぇ、仲原君カラオケ好きって言ってたじゃない?」

「うん」

「うまい?」

「ぼちぼちかな」

「じゃあ軽音に入ってよ。今ボーカルいないし。部員が女3人だけだしさ。男の子にも入ってほしいの」

「え?女だけなん?女だけでバンド組んでるん?」

「そうだよ。だから今入ったら、ちょっとしたハーレムかもよ?」

そう言って吉倉さんはイタズラっぽく笑った。

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