空へ
少し時間が経ち、レジに3人の客が並ぶと、リッピーが叫んだ。

「優太郎、レジ!」

私は「はいはい」と返事して、リッピーの隣のレジで客をさばいた。

「なぁ、アイツ、優太郎って名前なんだって」

客のヒソヒソ話が聞こえる。
私は耳が非常にいい方だ。

「オカマだ、ゼッテー、オカマだ。キモいよなぁ」

「キモいっちゅーか、キモチワルイよなぁ」

「ギャハハ!」

店内中に、バカそうな甲高い声が響く。

私はレジをバンッと叩き、奥室へと行った。

「おいおい、レディーの優太郎君を怒らすなよ」

「ギャハハ!」

レジの方から聞こえてくる…。

こういう事言われるのって、何回も体験してるの。
だけど、やっぱり慣れないね。

悔しいよ。

涙が溢れてくる。

私はいつまで経っても認められない…。

半ベソをかいてる私の隣にリッピーが来て、目の前にあるテーブルにコーヒーを置いた。

「飲みなよ」

リッピーはそう言って、もう一つ持っていたコーヒーを飲んだ。

「どうしたの、これ」

「ん?あのバカな連中がパクッて行ったってことにしたやつ」

私は、リッピーの置いたコーヒーを見つめた。
リッピーはそれ以上何も言わなかった。

何も言わなくても分かる。
リッピーなりに励ましてくれてるんだ。

リッピー、ありがとう。

そう言いたいのに、言葉が出てこなかった。

代わりに出てきた言葉…。

「私、ブラック飲めないの」

リッピーは「ぷっ」と笑った。

「あー、バカにしたわね!なによ、リッピーは嫌いな物がないって言うの!」

リッピーは、私の肩をポンと軽く叩いた。

「なんだ、元気じゃねーか」

そう言って、リッピーは笑った。

リッピーにつられて、私も笑った。

リッピー、ホント、ありがとうね…。



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