空へ
「それから私は、大学をやめて静岡から東京に来たの。そしてオカマバーで働いて…」

私は、話すのをやめた。

明らかにリッピーの様子がおかしい。

リッピーは俯いて、まるで黒いオーラを放つかのように小声で言った。

「…みっていった?」

「え?」

「良美って言った?」

昔の彼女…。

「え、ええ。名前は良美よ?」

私がそう言うと、リッピーは側にあった枕を全力で私に投げた。

「痛ッ!ちょ、ちょっと、リッピー?」

リッピーは怒鳴った。

「お前が、お前が良美の彼氏かッ!」

リッピーの迫力に圧倒され、吃った。

「え、な、何?ど、どうしたの?」

リッピーは続けた。

「良美は私の友達だ!一番の友達なんだッ!」

良美が…友達?

え?ウソ…。

「何がオカマになったキッカケだ!何が好きな者同士しかセックスをしないだ!どこが、良美を大切にしたんだッ!」

体は迫力に負けて、ブルブルと震えた。

「お前は、その後良美がどうなったのか知らないだろ!」

知らない…。
私はあの後すぐに東京に引越したから。

「お前が家に帰った時、良美は同居人とセックスしていたんじゃないッ!強姦されていたんだ!お前はそれを助けもせず、良美を見捨てて行ったんだ!良美はそのショックで、そのショックで、声が出なくなっちゃったんだッ!」

リッピーは興奮しすぎたのか、そう言って大粒の涙を流した。

少しの間、沈黙が流れる。

私は、涙を流すリッピーに、かける言葉が見つからない。

いや、自分の過ちを指摘され、恐怖した私の口は、鋼鉄のように動かすことが出来なかった。

沈黙で少し落ち着いたのか、リッピーは小声で言った。

「…だけど、悔しいことに、私もセックスが気持ち悪いものだと思っているから、優太郎の言うこともちょっぴり分かる…」

リッピーは、涙を拭って言った。

「…だけど、今日は帰って」

そう言うリッピーに、何も言うことが出来ない私は、そのまま家へと帰宅した。

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