空へ
−吉倉家之墓−

「はな…」

私は、墓石に書かれたそれを見るや、涙が溢れてきた。

あんなに明るかった陽菜…

あんなに仲が良かった陽菜…

それが、今ではこんな無機質な石で例えてしまう存在になってしまったんだ…

私は、葬式に出なかった。
最後に陽菜の顔を見ることが出来なかった。

…今では後悔している。

「はな、ごめん…」

私は泣きながら、何度もそう言った。



−墓の前で泣き崩れてから、30分くらい経っただろうか…。

私は、やっと、東京に引越した事を陽菜に伝えることが出来た。

こんな事をしても、私の親父のトラックが陽菜を殺したことには変わりない。

だけど、陽菜の墓に向かって話をしていると、心が少しだけ軽くなるような気がした。

「理沙、来てくれてありがとう」

まるで、陽菜がそう言ってくれてるかのような気がして…。




そろそろ帰ろうか…。

そう思って、立ち上がり、墓場の出口に目を向けた。

ちょうど誰かが墓場に入って来るのが見えた。

それを見た私はまた、咄嗟に他の墓石に身を潜めた。

−あれは、良美だ!

見つからなかっただろうか…?

そんな心配をよそに、良美は陽菜の墓石の前に座ると、合掌して目をつむった。

良美…
懐かしいな…

私は、今にも飛び出て、良美に抱きつきたかった。

しかし、それは出来ない。
別れを告げずに引越した私に、そんな権利はない。

私は、そっと良美を見つめた。

良美は、墓石の前で目をつむるだけで何も話をしない。

私は、さっきの努の話を思い出した。

ホントに、良美はまた声が出なくなったんだ…。

私は、良美にバレないように墓場から離れて、近くの文房具屋へ向かった。

文房具屋で、紙とペン、そして可愛らしい封筒を買う。

私に出来ることはこれしかない…。

私は、買ったばかりの紙に書き綴った。

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