空へ
優太郎は、精神を集中するかのように、目を閉じて耳を澄ませた。

私には向こうの会話はほとんど聞こえない。

たまに、でかい声の努の話声が断片的に聞こえるだけ。

後ろを振り返り、良美と努の顔を見てみたいが、もし目が合ってしまったら…。

気付かれでもしたら…。

そう思うと、堪えるより他なかった。

優太郎が目を閉じて、10分くらい経っただろうか。

「ねぇ、どんな話をしてるの?」

優太郎に聞くが、優太郎は「ちょっと待って」と、応えない。

‐まぁいっか。

店内は、有名なバラードの曲が流れていた。

2杯目のコーヒーを、少しずつ飲んでいく。

ぼーっとする時間…。
そう言えば、最近なかったなぁ。

そんな緩やかに流れる空気を、私の背後が瞬時に壊した。

「大宮晴貴ッ!」

‐バンッ!!

怒鳴り声とともに、大きな音がなった。

怒鳴り声は、努だ。

「ね、ねぇ、優太郎。何の話をしていたの!?」

私は、焦って優太郎に聞いた。

努が叫んだ名前…。

私も知ってる。

大宮晴貴は、あの事故の運転手だ…。

焦る私を、優太郎は不思議そうに見ながら言った。

「あのね、簡単に言うと、あの女の子の付き合ってる彼氏がバスの運転手だったんだって。それで、彼氏が酔っ払って帰って来た日があったんだけど、あの女の子は彼氏を仕事に行かせちゃって、それでバスが事故を起こして彼氏は死んじゃったんだって」


大宮晴貴…

陽菜を殺したヤツ…

そして、親父を…

私を…

アイツが、その彼女?

酔っ払った大宮晴貴を、仕事に行かせた…?


「ちょっとトイレ行ってくる」

私はそう言って、トイレに入った。

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