空へ

狂気に支配されて

女を追跡している最中、私は昔を思い出していた。


あの衝突事故から人が変わってしまった親父…。

親父は、トラックの運転手という仕事が好きだった。
仕事に生き甲斐すら感じている頑固親父だった…。
しかし、娘の友達を殺めたという意識から、トラックの仕事をやめた。
東京に引越しして再就職をしたが、長くは続かなかった。

事故の前までは、酒なんて飲まなかったのに、東京に引越してからは、仕事を辞め、毎日毎日朝から酒を飲むようになった。

私が家に帰ると、昼間だろうが朝だろうが夜だろうが、いつも酒を飲んでいる親父…。
そんな親父に、私は文句を言わなかった。

自分は、高校に行かせてもらってる…。

私の家は貧乏だった。
だから、高校に行かせてくれるだけでも有り難いと思った。

私は、学校が終わると毎日夜遅くまでバイトをした。

清掃会社のバイト。

進学するためだ。

私には、看護士になる夢があった。

その為、バイトを終えた後、夜遅くから勉強をした。

そして、希望の大学に受かった。

しかし、高校を卒業する日、事件が起こった。

卒業式を終えて、家に帰ると、いつもいる親父が突然姿を消したのだ。

机には、一つだけ書き置きがあった。


『理沙、卒業おめでとう。お前の荷物にはなりたくないから、家を出ることにした』


書いていたのは、それだけ…。

それから親父は一度も帰って来ていない。

−親父は、蒸発したんだ−

私は、警察に連絡し、インターネットで親父を探した。

親父の画像を載せて、発見者を集う。

しかし、親父は発見されることはなかった。

インターネットを使っていると、ある求人に目が留まった。

『基本給・月40万円
+歩合により、頑張れば月100万は稼げます』

そういえば、大学の授業料とかどうしよう…。

入学金は、高校時代にバイトをして払ったけど、これからの授業料をどうするか、私は考えていなかった。

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