空へ
空が暗くなり、女は人気のない住宅街に入った。

目的地に向かって歩いている…というより、さまよっている感じ…。

女は立ち止まり、空を見上げた。


−あの女

泣いている?

誰に対して?

良美?

いや、違う。

あいつの彼氏…

大宮晴貴に対してだッ!


私は、腹の中が煮えたぎる思いで女を睨んだ。


大宮晴貴さえいなければ、陽菜は死ななかった。

東京に引っ越すこともなかった。

親父が飲んだくれになることもなかった。

蒸発することもなかった。

私が、私が、デリヘル嬢になる必要もなかったんだッ!

私は、女を背後から襲った。

「うわぁぁぁ!!」

後頭部目掛けて、怒りで固まった拳を突く。

女は声も出さずに前のめりに倒れ、俯せた状態で気絶した。

私は女を仰向けにし、腹の上に馬乗りして顔を殴った。

「あんたのせいで!あんたの彼氏のせいでッ!!」

一発殴れば怒りが罪悪感に変わった。

二発殴れば涙が流れた。

三発殴れば、何が何だか分からなくなった。

四発殴れば、死にたくなった…。

「リッピーッ、やめてッ!」

後ろから優太郎の声がし、私は振り返った。

優太郎がこちらに向かって走って来ていた。

「理沙ッ何しとんねんッ!」

「理沙ーッやめてーッ!!」

私の瞳孔は一気に開いた。

優太郎の後ろには、良美と努が併走していた…。

ヤバイ…

咄嗟にそう思った私は、殴った女から離れ、逃げ出した。

「待って、理沙ッ!待ってよ!やっと、見つけたのにッ!」

良美が叫んだが、私は振り返らずに、その場を走り去った。



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