空へ
半年前…。
親父が蒸発したのは、一年前だ。

「なんかね、お父さん。ギターぶら下げて、ラッパ背負って、他にも色んな楽器身につけて、大道芸人みたいな格好してたよ?」

大道芸…!?

そっか、親父、生きているんだ…。

そっか、安心した…。

だけど、大道芸人って…。

私は、良美の台詞を想像し、プッと笑った。

「そっか、親父は大道芸人になったんだ!そっか、そっか、あはははは…」

笑っているのに、なぜか不思議と涙が零れた。

今日は泣きすぎだ…。

この後、夜の仕事に行かないといけないと思うと気が重い…。

だけど、今日で最後だ。

デリヘルをやって、3ヶ月…。

なんとか150万円貯まった。

これで授業料が払える。

大学の講義に専念できる。

もう、あんな事をしてお金を貯める必要もないんだ。


「良美、優太郎…私、そろそろ行かなきゃ」

私が二人から離れようとすると、優太郎が言った。

「行くって、どこに行くの?」

デリヘル…なんて言えない。

「夜にやってるバイトだよ」

私がそう言うと、優太郎は思い出したように言った。

「そういえばリッピー、バイトって、コンビニ以外は何してるの?リッピーが痩せた原因はそのバイトなんでしょ?」

「…道路工事だよ」

私は咄嗟に嘘をついた。

「そっかぁ、道路工事かぁ。リッピー、えらいわね」

純粋な目をしている優太郎を見ると、心がズキンと痛む。

「だけど、無理しちゃダメ。あなた、昨日倒れたんだから」

そうだ…。
私がコンビニのバイトで倒れたのは昨日。

あれから色々ありすぎて、時間がすごく長く感じた。

「大丈夫だよ。バイトは、今日で終わるから。今日で最後だから…」

私は、再度、自分に言い聞かせるように言った。

「あ、そうだ」

良美は、思い出したようにケータイを取り出した。

「ねぇ理沙、ケータイの番号教えて?」

私は、良美にケータイの番号を教えた。

「それじゃ、そろそろ行くね」

私がそう言い、再度二人から離れようとすると、また優太郎が私を止めた。

「まって!」

< 92 / 100 >

この作品をシェア

pagetop