もう1度~私と先生と桜の木~
「じゃあ、好きなヤツは?」
「…いる、よ」
「そっかあ。
俺が相談乗ってやろーか?」
奏の手が止まる。
「あ、でももし好きな人が類なら相談の必要はないぞ。
アイツ、お前にきっといい印象を…」
「違うよ」
奏は俺の言葉を遮った。
「好きな人は類じゃない。
それに類と私はただの友達。
それ以上でもそれ以下でもないの」
奏の声がなんだか威圧的で。
それ以上のことは何も言えなかった。
そしてまた、沈黙。
いったい、今日だけで何回目の沈黙だろう。
「…相談」
「え?」
「その人、私のことなんとも思ってないの」
突然、奏が言う。
右手ではシャーペンで単語を書いていて。
左手では辞書のページをめくっていて。
それなのに奏の口は動く。
なんて器用なヤツなんだ。
「どうすれば、意識してもらえる?」
そこでやっと、顔をあげた奏。
その顔は驚くほどに真剣そのもので。
少し、ドキッとした。