もう1度~私と先生と桜の木~
「えーっと、それでは最後のホームルームを始めたいと思います」
全員が静かに席につき、
教壇に立つよーたくんを見つめる。
廊下側の1番後ろの端の席で
私は全員の背中を見渡していた。
「正直に、言います」
よーたくんは目を伏せる。
でもすぐに顔を上げた。
「寂しいです。…すごく」
誰かが鼻をすすった。
「でも、嬉しいです。
みんながこうして、無事に笑顔で卒業してくれることが。
寂しさの何倍も嬉しい気持ちがあります」
よーたくんは泣きそうな顔をしながらも、
笑顔のまま、続ける。
「俺がこうして真面目に話をするのは似合わないと思う。
だから言いたいことだけ、簡潔に伝える。」
ふぅ…と息を吐いたよーたくん。
「ありがとう。
俺のくだらない話をいつも聞いてくれて。
ありがとう。
俺の生徒でいてくれて。」
目頭を押さえる。
私は溢れそうになる涙を堪えた。
だって、視界が霞んでしまうと教壇に立つ、よーたくんの姿が見えなくなるから。
私がこうしてここに座って、
よーたくんを見つめるのは今日で最後。
なのに泣いてしまったら、目に焼き付けることができなくなる。
だから私は、必死で涙をこらえた。
「本当に、ありがとう。
…俺と、出会ってくれて」
よーたくんの姿を見ていたいのに。
それなのに、堪え切れなくなって涙が溢れた。
出会ってくれてありがとう、
そう言いたいのはこっちのほうだよ、よーたくん。