もう1度~私と先生と桜の木~
そのあともテルくんはとくに変わった様子は見せなくて。
なのに私は動揺していて。
次第に笑顔が減っていった。
「風呂、入る?」
「…うん」
食事を終えた私にテルくんが言う。
「俺、もうちょっと食べれそうだから食べてるな」
その言葉に頷いて、着替えを持って部屋の中にあるドアを開ける。
目の前には小さいけど、ちゃんとした造りになってるお風呂があって。
そこからの眺めは最高。
そう。ここの旅館は各部屋に露天風呂がついているのだ。
記念、ということでテルくんが奮発してくれた。
湯船につかりながらボーッとする。
「なあ、奏?」
急に声をかけられる。
「どうしたの?」
ドアを隔てた向こう側にテルくんがいるのが分かる。
シルエットが浮かんでいたからだ。
「ちょっとさ、言いたいことがあって」
「うん。何?」
テルくんはこっちに入ってこようとはしない。
理由は簡単だ。
私が恥ずかしいからお風呂を一緒に入ることだけは絶対にイヤがるのを分かってるからだ。
テルくんは私をすごくよく分かってくれてる。
だからイヤがるのを無理矢理、なんてことは絶対にしない。