もう1度~私と先生と桜の木~
「じゃ、責任もって若林のこと頼みますよ」
「またね、奏ちゃん!」
家の方向が一緒な町田先生と翔馬は手を振り去っていく。
「…帰るか」
奏は実家暮らしで。
だから俺と同じ方向で。
「なんか…懐かしいな」
「よーたくんも思い出してた?」
奏が笑う。
確か、奏が高2頃だ。
部のみんなで焼き肉に行った帰り。
今日みたいに2人で帰ることになって。
あのときはまだ…俺は奏のことを生徒だと自分自身に言い聞かせていたんだろう。
「こんな時間まで出歩いてて大丈夫か?」
「うん。私だってもう二十歳だもん。
親もいつまでもうるさくないよ」
「彼氏は?何も言わない?
男3人と呑んでた、なんて怒るだろ?」
「ううん。大丈夫。
私のこと信じてくれてるから」
奏は最後にニコッと笑って見せたけど。
でも、俺は見逃さなかった。
奏の顔が一瞬、曇ったことを。