もう1度~私と先生と桜の木~
会話の内容は、
多分…空っぽだった。
気づくとすでに家の明かりは目の前で。
「あー…ね、よーたくん」
「ん?どーした?」
「ケータイ……いや、やっぱりなんでもない」
私は今、いったい何を言おうとしたんだろう。
自分で自分が怖くなった。
「あ、交換するか?メアド」
「え…」
「あ、やっぱダメか。
彼氏がいい顔しないよな。
いくら元担任でも男は男、だもんな」
へへ、と薄ら笑いを浮かべるよーたくん。
「…ごめんね」
「お前が謝ることじゃないだろ」
違うよ、よーたくん。
メアドを教えられないから謝ってるんじゃないの。
きっとよーたくんは優しいから。
だから、私が言おうとしてたことを察したんだ。
それで代わりに提案してくれた。
…私の間違いを正すために。
「送ってくれてありがとう。
じゃあ、また…いつか」
いつか、という響きがあまりに寂しかった。
だけど、それを言わなくちゃいけないのは私の本能が感じていた。
「あ、奏」
「ん?」
玄関のノブに手をかけた状態で振り返る。
「俺からのお願い…1つだけ聞いてほしいんだ。」
「え?何?」
俯いていたよーたくんが顔をあげて、
私を真っ直ぐに見つめる。
「俺から奏へ最初の最後のお願い。」
「元気出せ!!」