もう1度~私と先生と桜の木~
「…ここでいいの?」
「いい。静かなところで話したいから」
類は真剣な顔つきで頷く。
隣の碧を見ても同じように真剣で。
…なんなんだ、コイツら。
いつもなら焼き肉だ、居酒屋だ、
と俺にメシをおごれとたかるのに。
今日に限ってこんな落ち着いた雰囲気のバーに誘いやがって。
「いらっしゃいませ」
初老の男性がグラスを拭いてカウンターの中に立っている。
照明は控えめで、でも相手の顔はよく見える。
ホントにいい雰囲気の大人の店、という感じだ。
「マスター、いつもの3つ」
「かしこまりました」
奥のテーブル席に腰を落ち着ける。
「ここ、行きつけ?」
「ん、まあね」
「…大人になったな」
「何それ。俺、大人だっつーの」
高校生の類を知ってる俺からしたら、
ビックリなんだよ。
お前がこんな雰囲気のお店が行きつけ、なんて。