ハナウタ
クラスのほとんどが部活に出払った教室で、帰宅部を選んだ僕は1人席について文庫本を読む。
小説は、楽しい。
不思議な出来事も様々な人間模様もそこには詰まっている。
ただただそういった物語や知識が自分の中に取り込まれ、染み込んでくる感覚は心地良い。
こんな時間はとても好きだったけど、同時に決まってその背後に薄ら寒い『不安』が立っている気がした。
何か反応すれば、この『不安』にのまれてしまう気がして、気付かないフリをするかのように僕はただ淡々と他者の物語を吸収する。
何が『不安』なのかもわからないまま、その『不安』で出来上がったおぼつかない椅子に座っているような感覚の反面、穏やかに時間を過ごす自分が、頭のどこかで必死に『自我』を繋ぎ止めている気がした。
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