ハナウタ
タン……ッ!
夕色に染まる空気を貫く矢が、小さく丸い的に吸い込まれるように突き刺さる。
「わ…すごいね」
「だろ?」
校舎を出てすぐ、僕達二人が帰宅部だった事から柏原君が所属する弓道部の道場を見て行こうと言う話になったのだ。
彼の放った矢は的の真ん真ん中にすっきりと納まっている。
あまりにも乱れのないそれは、奇妙なオブジェのようにも見えた。
柏原君に視線を戻すと自分の成果などにはまるで興味なさそうに無表情の彼がいた。
「あいつ、弓道嫌いなんだ」
「じゃあ…なんで…」
「隙を見せないため」
「隙…?」
話しながら眺めていた柏原君が、外から中を覗く僕達二人の視線に気が付いたのか、急にこちらに視線を向けた。
挨拶程度に手を振ると、彼は少し驚いたような顔をしていたけど、すぐに零れるような笑顔を咲かせた。
おぉう、華やか…
「楠木さん、帰宅部にしたの?」
柏原君は二言三言先輩に何か告げるとすぐに外に出て来た。
「うん。あんまり興味持てなくて」
「そっか、今帰り?」
「校舎追い出されたんだよ」
顔をくしゃくしゃにしかめてみせる蒼岸君を見て柏原君は「なるほど…」と言って少し笑った。