ハナウタ
「帰り電車なんだ。
楠木って家、どこなの?」

「蒲原。
…え、どうしたの?」

「…いや、もうちょい近場だと思ってたから」



学校がある地区と、町を一つ挟む事になるが一応は同じ地区だ。
それに、もっと遠くから来てる人もいると思うんだけど…


鞄から定期を取り出す僕の横で、蒼岸君はなんともなしに話し掛ける。



「なんかさー呼びにくいから名前で呼んでいいか?」

「うん。どうぞー」

「じゃ俺の事も好きに呼んでよ」

「へ?」




ようやく定期を見つけ顔を上げると彼は改札の向こうの時計を見ながら続けた。


「お前に"蒼岸君"とか言われるとなんか違和感。
言い慣れてねーんじゃねーかと思って」




…ばれてたか。

確かに、実のところ男子を『君』付けで呼ぶのは何回やっても慣れない。
少し、彼の観察力に驚いた。



「じゃあ…"アオ"って呼ばせてもらおうかな」

彼は「了解」と淡く笑うと電車、もうすぐ来るよ。と時計を指差し教えてくれた。




「じゃなーカヤー」

「あ、うん。 また明日」



胸のどこかにむず痒さを感じながらも、僕は駅のホームに向かった。
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