ハナウタ
「…」






心臓の下でうごめいていた冷たい粘性の不安が、引き潮のように引いていく。

笑うだけの力を取り戻し、返す。



「大丈夫、ありがと…」

グイッ



アオは乱暴に僕の手を掴んで目の前に突き出した。
僕の目の前で、僕の意思に反して、その指先が震える。

その向こうで、アオが真っすぐに僕を見つめるのが見えた。




「嘘、つくなよ」










胸の奥で、シャボン玉が弾けるように、温かさが満ちてくる。
肺をがんじがらめにしていた寒気が溶けていくのがわかった。


指先の震えが、自然と治まっていく。








「…うん」



ようやくいつもの調子が戻ってくる。

アオへの申し訳なさも。



「ごめん」




勘違いも、誤解もせずに僕を心配してくれたアオに僕は、嘘をついて逃れようとした。
アオの気持ちを、見ぬふりしようとしたのだ。

僕らが嫌う、僕とアオと柏原にとっての"失礼な事"。




僕の様子を見て、アオは安心したように笑って、ため息を一つついた。

そんな彼に笑い返しながら、思う。






大丈夫、彼らは変わらない。
"僕"という存在と唯一向き合ってくれている、彼らだけは。

大丈夫だ。
立っていられる。
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