ハナウタ
…………………………
















次に僕が目を開けたのは保健室のベッドに寝かされてしばらくしてからだった。

ベッドのすぐ横に視線を移すと、心配そうにこっちを覗き込む伊沢サンがいた。


伊沢サンは僕に何か言おうと口を開くが、すぐに気まずげに目を泳がせた後、「ごめんなさい」と頭を下げた。


「自分までシカトされるの、怖くて……あの机の落書き、もう消したから…」


ぼんやりと聞いていた僕の頭に、ふと疑問が浮かぶ。

「あれ、油性マジックだったよね…?」


問われた言葉に彼女はさらに気まずそうに俯く。



「昨日…その話してたから、こっそり渡すつもりで除光液、持って来てたの……
でも柏原君が怒って、皆パニクってたから…

私も、いい加減、自分ばっかり守るの、やめようと思って…」


考える力を失ったように聞く僕に、彼女は続ける。


「楠木さん、いつも親切だったのに、ホント、ごめんなさい」






僕は、常のように、曖昧に笑う。




「ううん。ありがとう」






伊沢サンは目を見開いて僕を見た後、ボロボロと涙をこぼししゃっくりあげて泣き始めた。
僕はと言えば、びっくりした。



「えっ!?わわっどーしたの?」
「な…んでっ笑って…っのぉ…ふ、つぅ…怒る…でしょ…っ…グスッ…」



僕が怒った方が、彼女はいくらか救われたのかもしれなかった。

罪悪感に押し潰されそうだったのかもしれない。
根の優しそうな彼女にとって、無条件に許される事で余計許された気がしなかったのかもしれない。
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