ハナウタ
「ありがと、アオ」
「…ん」
僕はきっとアオのこの優しさに甘えてる。
でも、甘えてる自分を少しは許しても良いのかもしれない。
僕はいったいどれくらい寝ていたんだろうか。
どんな事情もいとわずに軽やかな鐘の音が校内に響いていた。
時計を見ると、登校時刻から1時間経過したあたり。
どうやら1限いっぱいここにいたらしい。
ガラガラ…ッ
「あ、柏原」
「楠木っ…もう、平気?」
少し息を弾ませて入って来たのは柏原だった。
朝の様子はもう完全になくなり、いつもの穏やかな青年へと戻っていた。
「うん、もう平気」
「それなら良いけど…もう今度からこんな事させないから」
そう強く言う彼の言葉に思わず寒気を覚える。
その言葉が、酷く危ないもののような響きを持っていた事に、本人は気付いているのだろうか。
ただ笑うしか出来ない僕に、いつも通りの優しい笑みを浮かべ話を続ける。
その後の彼の様子に、その時の冷たさがよぎることはなかった。
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