ハナウタ
第一印象は、『あぁ、京介の好きそうな子だなぁ』だった。
だけど、話していて、大人しいだけの女子じゃない事がわかって、

その深さに、驚いた。

いや、広さか。
あいつはまるで薄く湖面に広がる氷のように、脆かった。




でも、いつも薄い線を確かに置くように微笑むあいつが、放課後にしたなんでもない会話の中で見せた嬉しそうな笑顔を見て、変な話、頭のどこかで"カヤにだって感情があるんだ"って思った。

色んな事を諦めて、傷付かないようにするからこそあまり感情を大きく表に出そうとしないすごく弱い部分をそこに見つけた。







京介は、そんなカヤにはまっていった。
あいつと話の合う俺に、険を見せるようになった。



俺と京介の間の溝は深まってくばっかりで、でも俺はカヤと接する事をやめなかった。

多分、俺もカヤにはまってたんだ。

笑顔が好きだった。
笑い声が好きだった。
京介のように良い子でいられなかった俺は、気が付いたら人の感情の機微に敏感なお調子者になっていた。

カヤは、いつも変わらずそこにいたけど、心を強張らせることがなかったから俺がほぐす必要もなくて、あるがままを受け入れていたから俺が無理に笑わせたりする必要もなくて、気が付いたら俺ばっかりが何処か満たされていて…もっとカヤを知りたくなった。
あいつに必要として欲しいと思った。




京介は、カヤの前ではいつも通りで、段々壊れていく幼なじみを、俺だけが見ていた。





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