ハナウタ
カヤは、誰かにとって自分が大きな存在になる事をとても怖がる節がある。

自分の影響を強く受ける人を見るのは、ふわふわと存在しているような自分が確かにそこにいるんだと、いなきゃいけないのだと、思い知らされるようで、怖いのだと。
俺も、京介も知っていた事だ。




だけど、京介はカヤにすがり付くようにして言った。




「楠木が…初めてだったんだ…俺を…本当の俺を見てくれた…だから…っ」







母親にすがるように必死なその背を、俺はただ眺める。
盲目的な姿はどこか滑稽で、悲しかった。
カヤは、真っ青な無表情で、京介を見ていた。


そのカヤの手が、震えていた。

結ばれた唇が、白かった。






カヤが、逃げずに答えようとしているのがわかった。

















やがてカヤは、いつもとは違った、優しい笑顔で、京介に言った。

そっと背を押すような慈愛の顔にも、泣きそうな、弱々しい笑顔にも見えた。
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