ハナウタ
その日の帰り、
俺は、地元の駅までカヤを送って行った。
駅までのバス、1番後ろに二人で座る。
俺は最初運転席の方に目をやっていて、窓の外に目をやり、それから天井に視線をあまり隣のカヤに気取られないようにせわしなく移動させた。
いつもは心地良い沈黙が、落ち着かない。
ふと、カヤを見ると、疲れ切ったように俺にもたれ掛かってうたた寝をしてた。
「………」
その睫毛に溜まっている涙に気付き、拭おうとして、留まる。
その留まった一瞬で、涙はカヤの頬をつたって落ちた。
その雫はカヤの華奢な顎のラインの向こうに消えた。
こんな華奢な体で、
色んな人を思っては悩んで、
満たされないこいつの想いは、どこへ行くんだろうと思ったら…
何故か、
俺はカヤにキスをしていた。
触れるだけ、
本当に、バスの揺れに簡単に紛れそうなくらいの、無意識のような、すごく意識したような、一瞬。
離れた時に、カヤと目が合った。
俺は、何故か落ち着いていて、
カヤも、動揺の色すら見せずに、静かに俺を見ていた。
駅に着いてから、いつも通りに別れ、カヤは改札の向こうに消えた。
カヤがいなくなったのは、それから4日後だった。