君と桜と



三谷君はその綺麗な目を切なげに歪めて奈緒の視線を絡め取る。




「待ってて欲しい・・・とは言えないけど・・・

ただ、時間が必要なんだ。」




大好きな視線の中にいるというのに、このときばかりは苦しくて、逃げたくてしょうがなかった。





「今は・・・無理、なんだ・・・」


そう言った三谷くんは、いつも涼しげな彼からは想像のつかないほど、苦しそうだ。


ああ、三谷君は私の言いたいことを全て理解しているのだ。
分かってしまったから、三谷くんは、苦しんでいる。



私が、苦しめているのだ。



「・・・ごめん、なさい。」


泣いてはいけない、とわかっているのに。
どうしても滲んできてしまう涙を、止める方法はないのだろうか。


「謝らないで。悪いのは俺なんだから。」


奈緒は必死に首を振る。


違うの、悪いのは私なの。

あれほど恐れていたくせに、あっさりと関係を崩すようなことを言ってしまったのだから。



「・・・箕輪が、奈緒が。


大切なんだ・・・


だから、ごめん・・・。」




三谷君は一言一言搾り出すように、優しく、残酷な事を奈緒に告げた。



その言葉はとても重く、ぼんやりとした頭に鈍い痛みを刻み込んでいく。




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