君と桜と
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「うわあ、朝から結構人きてるなあ。」
坂城君が舞台袖から客席を覗き込んで驚きの声をあげた。
「うちのクラス、前評判が良かったみたいだよ。」
3年生のクラスは朝から整理券を配布しなければならないほどの賑わいを見せるけれど、1・2年生はまちまちで、1日目の朝からお客さんが集まるのは珍しいことだった。
お客さんの入り具合は、文化祭が近づくと自然と流れるクチコミ評判に左右される。
あのクラスは、歌の上手い子が集まっているとか、美大を目指している子がいるから、あそこの舞台はクオリティが高いとか。
「へー、クラスみんな頑張ったもんなあ。そりゃ評判も良くなるな。」
坂城君はうんうん、と納得している。
「そう、キミのおかげなのよ!坂城!」
そこに突然現れたのは、この期間クラスをずっと引っ張ってきてくれた監督さんだった。
「え、なんで俺?」
坂城君は、きょとんとしている。
絢に鈍感だと言われる私でもわかるほど、坂城君は天然なところがあるのだ。
「我らが2年6組の劇の評判はですね、
とにかく主役の坂城君がかっこいい~♡
以上、シンプルにこれだけなのです!」
「え、うそだあ、うまいこと言ってのせようとしたって、そうはいかないぞ!」
信じられない、という表情の坂城くん。
「うそじゃないよ。リハーサルの時だって、他クラスの女の子達が廊下から覗いてたんだよ?」
そう、監督さんの言うとおり、王子様の衣装に身を包んだ坂城君をひと目見ようと連日女の子達が奈緒たちのクラスの練習風景を覗きに来ていたのだ。